100年前にタイムスリップできるカフェ 十人十家とは?

100年の時を超えて、受け継がれる思いと郷土愛。

近江八幡市で多くの建築を遺した、アメリカからやってきた宣教師・ヴォーリズ。

彼が建築したのは約100年前。もうほとんどが老朽化で現存が難しい中、近江八幡市では、大事に大事にされてきたお屋敷たち。

その中でも、気軽にヴォーリズが遺した建築に触れられるのが、カフェ&バーとして営業されている「十人十家」です。

インタビューのきっかけ

十人十色カフェ
十人十色カフェ

近江八幡市にある、「ヴォーリズ建築を改装したカフェ」を営み、設計士でもある田中涼さんにお話を伺いました。


近江八幡市の中でも人気のお店のひとつ、「十人十家カフェ」。

ヴォーリズ建築を改装したと知り、興味が湧いたので、行ってみることにしました。


近江八幡市のヴォーリズ建築はいまも個人でお住いのものもあるため、外観を見ることはできても、お屋敷の中に入ることはできなかったり、特別な時にしか入れないような場所もあったりして、私にとっては敷居が高いと感じていました。

そんな中、カフェという形で気軽に入ることができると知った私は、ワクワクした気持ちでお店に伺いました。

田中さんにも貴重な時間を頂き、ヴォーリズ建築のことを知るきっかけにもなりました。

長く近江八幡に住む私でも、「そうだったんだ!」と驚くことがたくさんあり、またカフェでお話ししたいなと思うほど、十人十家さんにほれぼれしてしまいました。

田中さんは、2019年に「パーミリー邸」と出逢い、ヴォーリズ建築をもっと知ってもらいたいという思いを持って、カフェをオープンされたそうです。

田中さんの思いや、ヴォーリズ建築の特徴など、インタビューしたのでぜひご覧ください。

【100年前の建物を改装】十人十家Cafe&Bar(ヴォーリズ建築)の詳細

築100年のヴォーリズ建築を改装!
居心地の良い空間で味わう生パスタを使ったイタリアンや近江牛、レトロなデザートが自慢の隠れ家的Cafe&Bar。
今後も素敵なご縁を当店で。。。

ヴォーリズ建築って…?

ヴォーリズ建築のなかでも有名なものは、

  • 関西学院大学の西宮上ケ原キャンパス (兵庫県)
  • 山の上ホテル(東京都)
  • 大丸心斎橋店(大阪府)

が有名です。


アメリカンスタイルという新様式を確立した、名建築士のウィリアム・メレル・ヴォーリズ。

近江八幡では、「ヴォーリズさん」と親しまれています。

近江八幡にやってきたのが120年ほど前。彼が近江八幡を愛し、たくさんの功績を残してくれたことで、今でも地元の人に愛されている偉人です。

彼は宣教師として近江八幡にやってきましたが、独学で建築を学び、生涯の中で1600棟以上の建築物を手がけました。

100年前の日本というと、間取りは「お客様をもてなすための間取り」が多く、キッチンやリビングは家の中でも暗いところにありました。

そんな中、「陽の当たるあたたかい場所にリビングを」「家事がしやすいような間取りを」と、アメリカのスタイルを用いて多くの住宅を建てたものが、近江八幡にも残されているのです。

「パーミリー邸」との出逢い

八幡堀から徒歩で約20分、車で5分ほどのところにあるのが、約100年前のヴォーリズ建築を改装した十人十家(じゅうにんといえ)カフェ。

その設計士でもあり、オーナーでもある田中涼さんにお話を伺いました。

いろは
早速ですが、どうしてヴォーリズ建築でカフェをしようと思われたんですか?
いろは
マスター:田中さん
もともと、建築を学び、携わる仕事をしていた時に、「飲食店も設計の仕事もしたいな」と思っていて、物件を探しているときに出会ったのが「パーミリー邸」だったんです。
マスター:田中さん
いろは
偶然出会われたんですか? なんというご縁…!ドラマみたいですね! ヴォーリズ建築だと知っていて、改装されたりしたんですね。
いろは
マスター:田中さん
もともとお住まいだった方が高齢になって、平屋を建てて隣に住んでいらっしゃったんです。ヴォーリズ建築を大切にしてくれる人にと、設計士さんに譲られたのですが、設計士さんも急逝されて。設計士さんの奥さんが、大切にしてくれる人に譲りたいと売りに出されて、私が思いを引き継いだ形になります。
マスター:田中さん
マスター:田中さん
設計図を残してくださっていたので、その設計図を元に改装しました。改装当初はシロアリの被害がすごくて大変でした。休みの日に何度も通って傷んだところを改修していくための作業をしていました。
マスター:田中さん
いろは
また住めるようにするまでにどれくらいかかったのですか?
いろは
マスター:田中さん
解体でおよそ2か月。改装合わせて1年くらいでしょうか。ちょうど感染症が流行っていたので、なかなかボランティアさんも集まってもらえなくて、苦労しました。
マスター:田中さん
いろは
大変な時期に解体、改装だったんですね…。そんな中、改装されるにあったって大事にされていたことは何ですか?
いろは
マスター:田中さん
この建物は、建て替えではなく、修繕して使ってくれるひとに、という思いで譲られた物件なんです。だから、ヴォーリズ建築で大切にされていたものは残して、改修しました。
マスター:田中さん
マスター:田中さん
2階を居住スペースにしているので、「住人と家」、漢字を当てはめて、「十人十家」(じゅうにんといえ)というわけです。1階はカフェとバー、そして設計事務所です。
マスター:田中さん

100年前のものに触れられるカフェ

ヴォーリズの建築が好きで、県内外からこのカフェへ訪れる方々も多くいらっしゃるそうです。

店内は見どころだらけ。みなさんもぜひじっくりとヴォーリズ建築に触れてみてください!

マスター:田中さん
お店に、修繕中の写真をアルバムにしたものがあるので、よかったらご覧になられますか?
マスター:田中さん
いろは
ありがとうございます!本当に貴重な写真がたくさん…!これは、お店に来られた方皆さんが見られるんですか?
いろは
マスター:田中さん
はい。譲っていただいた貴重な写真も、ヴォーリズ建築にまつわるMAPや資料も見ていただけます。
マスター:田中さん
いろは
え…!これは建築に興味がある人はもちろん、ちょっと観光でヴォーリズ建築が気になった人にも、オススメですね!
いろは
マスター:田中さん
ヴォーリズ建築が好きな方がよくお越しくださるんですよ。だから私も、見識を深めるためにいろいろと勉強しました。はじめてのひとにも、ヴォーリズ建築って素敵だなと思ってもらえたらうれしいです。
マスター:田中さん
いろは
素敵ですね!  ところで、お店にある本棚なんですが…、もしかして、当時のものですか?
いろは
マスター:田中さん
そうです。棚、扉、暖炉などは当時のままです。柱は補強したものもあります。やっぱり住むにあたって耐震は大事なので。席を区切っているこのガラスは、もともと外窓で使われていたものです。
マスター:田中さん
いろは
ということは、100年前のものですか?当時のものがまだ現存して、こうして使われているなんて…、すごく歴史を感じます!
いろは
マスター:田中さん
実は、扉の取っ手も当時のままなんです。これは水晶なんですよ。プライベートが紫水晶、お客様も使う扉は白水晶なんです。使用人の人が見てわかるように設計されているんです。
マスター:田中さん
いろは
100年前のものが今もこうして残って、大事にされているなんて、本当に素敵です。ヴォーリズ建築がさらに好きになってきました!
いろは

こだわりはメニューや店内にも。

メニュー
メニュー
メニュー
メニュー
当時から残る暖炉
当時から残る暖炉
扉も当時の物が使われています
扉も当時の物が使われています
いろいろな種類のお酒も。
いろいろな種類のお酒も。
欄間が飾られていてかっこいいです!
欄間が飾られていてかっこいいです!
マスター:田中さん
昔なつかしい喫茶店メニューというのが、このカフェの魅力のひとつです。プリンにクリームメロンソーダ。バーとして、お酒もあるんですが…ヴォーリズさんは、タバコもお酒もダメだと言っていたので、もしかしたら怒られるかもしれませんね
マスター:田中さん
いろは
ヴォーリズさんも、こんなに素敵なお店をご覧になって、みなさんが笑顔になっているのを見たら、きっと許してくれるとおもいます! 本当にメニューも豊富ですね。……生麺のパスタもあるんですか?
いろは
マスター:田中さん
そうなんです。淡路島のものなんですが、行商の方がここまで出向いてくださって。食べてみたら本当に美味しかったので、お店で提供させていただいています。
マスター:田中さん
いろは
ヴォーリズ建築の中で、おいしいお料理やかわいい飲み物、そしてうれしいデザートまで頂けるなんて、ぜひ市外、県外の方にも立ち寄っていただきたいですね!
いろは
いろは
改修するにあたって、ここだけは絶対大切にしようと思っていたことってなんですか?
いろは
マスター:田中さん
ヴォーリズ建築の特徴は絶対残したかったので、暖炉・ベンチ・扉は当時のままにしています。各邸ごとに違うのも特徴なんですよ。パーミリー邸の暖炉は世界で一つです。同じものを作らなかったので、住む人によってデザインを変えていたんですね。
マスター:田中さん
いろは
すごいですね!当時だと作ってもらうのも大変そうですね。
いろは
マスター:田中さん
そうなんですよ。見たことも作ったこともない大工さんに、設計図や自作したものを見せたりして作ってもらったそうです。大事にしたくて、店内でも見てもらえるようにしています。
マスター:田中さん
いろは
ほかのカフェにはない魅力がこんなところにもあるんですね!確かに、扉も大きいですね。ここに住まわれている人のことを考えて、この大きさなんでしょうか?
いろは
マスター:田中さん
そうですね。扉も各邸ごとのデザインがあって、貴重なものなんです。ベンチも、邸ごとに違うんですよ。パーミリー邸はスタンダードな形に見えますが、これも、靴を脱ぐ習慣がなかった海外の人のために作られているんです。お話もここでできますしね。店内のあちこちに、ヴォーリズ建築の特徴が残っています。
マスター:田中さん

建築秘話

お洒落な入り口
お洒落な入り口
ヴォーリズさん直筆
ヴォーリズさん直筆
扉の上にもヴォーリズさん直筆の書
扉の上にもヴォーリズさん直筆の書
踊り場のある階段
踊り場のある階段
床の桜の柄が優しい雰囲気。
床の桜の柄が優しい雰囲気。
美しい桜の模様。女性に好評だそうです。
美しい桜の模様。女性に好評だそうです。
欄間の飾り扉
欄間の飾り扉
紫水晶の取っ手
紫水晶の取っ手
水晶の取っ手の棚
水晶の取っ手の棚
いろは
最後に、建築秘話をお聞きしたいです!
いろは
マスター:田中さん
そうですね…。100年前の建築物なので、とにかく土壁を崩すのが大変でした。外壁は、当時の物は傷んでいたので、同じようなものに張り替えています。それから、煙突はもうなかったんですが、煉瓦で護られた配管があったので、貴重な体験でした。
マスター:田中さん
いろは
あっ、そうですよね。暖炉があるんだから、煙突もあったんですよね。いつ頃まで使われていたんだろう…、素敵なリビングだったんだろうなぁ。
いろは
マスター:田中さん
もともとお住まいだった方はずっと使っていらっしゃったので、ほんの数十年前までは使っていたと思います。それから、井戸もあったんですよ。これも私が潜って、土を掻き出しました。飲料水としてはだめですけど、生活用水で使えます。
マスター:田中さん
いろは
すごい!この井戸は部屋の中にあるんですね。100年前なら、外にありそうですけど…。使用人の方たちや、使う人が、どんな時でも安心して使えるように、部屋の中にあるのかもしれないですね。ヴォーリズさんの優しさを感じます!
いろは
マスター:田中さん
お風呂まで運ぶのも一直線でいけますし、近代的ですよね。こういう間取りの資料も店内にあるので、よかったら見ていってくださいね。
マスター:田中さん
いろは
ありがとうございます! ところで、カウンターの正面にあるのは、欄間ですか?
お洒落ですね!
いろは
マスター:田中さん
これも、設計士の仕事の中で頂いたものを飾っているんです。近江八景なんですよ。今こういうのはなかなか手に入らないので。大津の風景ですね。浮御堂と、比良山系。実は、トイレにも欄間を用いて飾り扉にしているんですよ。
マスター:田中さん
マスター:田中さん
トイレにはヴォーリズさんが愛した桜の模様を床に彩ったり、手洗いの盆を桜柄にしたりしています。通路にある階段ですが、これも当時のままで。ヴォーリズ建築では必ずある「踊り場」もあるんですよ。大きな窓から、八幡山が見えるんです。
マスター:田中さん
いろは
随所にヴォーリズ建築の特徴が残されていて、とてもワクワクしました!テーブルの上にある鳥籠のライトも、田中さんお手製なんですよね。時間が経つのを忘れてしまいそうになるほど、見どころがいっぱいです!
いろは

近くには「旅館のように、くつろいでほしい。」という想いが込められたゲストハウスも

十人十家さんのカフェの近くには、「うさぎとかめ」という宿泊施設があります。

カフェからは徒歩5分、八幡堀から車で約5分で着くゲストハウスは、田中さんが手掛ける宿です。

うさぎとかめという名前は、ヴォーリズ建築のひとつ、旧豊郷小学校校舎の階段に飾られているうさぎとかめの銅像から引用されたそうです。

旧豊郷小学校校舎のうさぎとかめにも、ヴォーリズさんの思いが込められていて、かめのようにコツコツ頑張るひとになってほしいというメッセージが込められているのだそうです。

こちらの宿泊施設は、2階建てで、キッチンもあります。

連泊を想定しているので、ゆっくりくつろげる空間となっているのも特徴です。

宿に泊まりながら、ヴォーリズ建築に触れるためにカフェまでお散歩、というのも素敵ですね!

近江八幡市出町には、「ありときりぎりす」という平屋の宿泊施設もあります。

こちらは階段がないので、お年を召した方でも安心して泊っていただけるようにと設計されているそうです。


いろは
うさぎとかめって、もしかして旧豊郷小学校校舎のうさぎとかめですか?
いろは
マスター:田中さん
そうです。ヴォーリズ建築繋がりで。キッチンもあるので、連泊をする方にも寛いでもらえるようにしています。
マスター:田中さん
いろは
一棟貸し切りなんですね!近江八幡で宿泊も始めようと思ったのは何故ですか?
いろは
マスター:田中さん
観光される方々が泊まる選択肢が、近江八幡市になかったので…。彦根や京都などに泊まられるので、夜の近江八幡をゆっくり見てもらえるきっかけがないのがもったいないなと。
マスター:田中さん
いろは
確かに…!ビジネスホテルはありますけど、観光で泊まれるところはなかったですね
いろは
マスター:田中さん
旅館のように寛いでもらいたくて、始めました。リーズナブルなのは、私が設計士で、費用をなるべく抑えて、宿泊してもらいやすいように工夫しているからなんです。
マスター:田中さん
いろは
ありときりぎりすという場所もありますよね?そちらはどんな宿泊施設なのですか?
いろは
マスター:田中さん
ありときりぎりすは、平屋なんです。お年を召した方や、お子様連れでも安心して泊っていただけます。名前はおとぎ話からとっているんです。頑張って働いているときは【あり】、だから、この宿に泊まった時は【きりぎりす】になっていただきたくて。
マスター:田中さん
いろは
ヴォーリズ建築にも息づくおもいやり、そして田中さんの優しさで2つの宿泊施設ができたんですね!素敵です!本当にお洒落で落ち着く空間なので、私も地元ですが泊まってみたいです!
いろは
マスター:田中さん
私は設計士なので、この宿泊施設はオープンハウスで公開しているときもあります。
実はモデルハウスとしても使っているんです。こだわりの宿です。どうぞおくつろぎください。
マスター:田中さん

旅宿うさぎとかめ(GuestHouse USAGI to KAME)

約50年前に建てられた木造建築を一部ヴォーリズ建築の建具や金具などを利用してリノベーションした一日一組限定の宿です。
坪庭を眺めながら入る露天風呂には信楽焼の浴槽を贅沢に使用。
新旧と和洋が融合しつつ、上質で落ち着きのある空間をご提供させて頂きます。

さいごに

いろは
今回は、貴重なお時間を頂いてインタビューさせていただきました。

私もヴォーリズ建築をもっと深く見てみたくなりました。

はじめて近江八幡を訪れる方にも、近江八幡をよく知る方にも、一度立ち寄っていただきたい場所です。

ヴォーリズ建築がもつ「やさしい」「おちつく」雰囲気を壊すことなく、みんながヴォーリズ建築を知るきっかけの場になってほしいと、田中さんは話しくださいました。

私も、「やさしい」「おちつく」空間にすっかりとりこになってしまいました。

近江八幡にお越しの際には、ヴォーリズ建築に触れながら、おいしい料理や貴重な資料が見られる、ここにしかない空間でゆっくり過ごしていただきたいです。


いろは
いろは

この記事で紹介した施設

十人十家Cafe&Bar(ヴォーリズ建築)
築100年のヴォーリズ建築を改装! 居心地の良い空間で味わう生パスタを使ったイタリアンや近江牛、レトロなデザートが自慢の隠れ家的Cafe…
十人十家Cafe&Bar(ヴォーリズ建築)
もっと見る
旅宿うさぎとかめ(GuestHouse USAGI to KAME)
約50年前に建てられた木造建築を一部ヴォーリズ建築の建具や金具などを利用してリノベーションした一日一組限定の宿です。坪庭を眺めなが…
旅宿うさぎとかめ(GuestHouse USAGI to KAME)
もっと見る

ライタープロフィール

いろは
近江八幡で生まれ、近江八幡で育ち、近江八幡で働いている生粋の近江八幡のひと。

趣味はカメラと観光。それから猫と遊ぶこと。

素敵な情報を発信できるようがんばります!
いろは
ページトップへ