歴史的建造物郡保存地区
歴史的建造物郡保存地区の歴史 ~近江八幡の町並み保存とその取り組みについて~
近江八幡の町並みについて
【古地図】総絵図・江戸時代(元禄期)の近江八幡の 町並み
近江八幡の町並みは、天正13年(1585年)に豊臣秀次(豊臣秀吉の甥)が八幡山に城を築いたことに始まります。
秀次の楽市楽座等による商工業の発展政策は、その後の近江商人の活躍の原動力となりました。天正18年(1590年)に秀次が移封され、ついで京極高次が城主となりますが、わずか5年後の文禄4年(1595年)に廃城となります。城下町商人としての特権は失われましたが、船や街道を利用して多くの人や情報、文化が入ってくる地の利を活かし、その先進性と自立的な商法により八幡を本店として江戸や大坂に出店を設けるなど活躍していきます。
今なお碁盤目状の整然とした町並みは旧市街地に残され、特に新町や永原町にはかつての近江商人本宅の家々が立ち並び、八幡堀に面した土蔵群は往時の繁栄を偲ばせます。
重要伝統的建造物群保存地区について
昭和50年の文化財保護法の改正によって誕生したもので、この制度により、全国の城下町、宿場町、寺内町、門前町、港町などの、歴史的な集落や町並みの保存が図られるようになりました。
国の選定を受けるには、市町村は条例等により「伝統的建 造物群保存地区」を決定し、地域内の修理や修景などを計画的に進めるための保存条例に基づき保存計画を定めます。国は市町村からの申し出を受け、特に価値が高いものを国(文部科学省) が重要伝統的建造物群保存地区として選定します。市町村の取り組みに対し、文化庁や都道府県教育委員会は指導・助言、補助や税制優遇措置を行うなどの支援を行っています。(令和5年12月現在、全国で105市町村127地区が選定されています)
なお、選定基準となるのは以下の通りです。
(1)伝統的建造物群が全体として意匠的に優秀なもの
(2)伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの
(3)伝統的建造物群及びその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの。
近江八幡市八幡伝統的建造物群保存地区について
平成3年4月30日に滋賀県内では初となる国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けました。選定地域は、新町筋、八幡堀周辺、永原町筋、日牟禮八幡宮境内地を加えた13.1ヘクタールになります
保存地区内の特徴について
切妻造桟瓦葺、平入の木造建築が基本。正面の構えは格子、出格子、虫籠窓からなり、道路に面する庭に見越しの松を配し、緑を取込んで景観に安らぎを与えています。近江八幡では中二階建が多く、貫見せ(軒下の壁に貫を見せる)は、他に例の少ない独特の意匠と言われています。
町並み保存の主旨(近江八幡市八幡伝統的建造物群保存地区冊子より抜粋)
近江八幡市は、優れた美しい自然と、数多くの歴史的文化遺産に恵まれ、先達の永年の努力と蓄積が今日まで継承された結果、本市独の歴史的都市空間を形成し、これまで近江八幡の誇りとしてきた。特に八幡の城下町を中心とする、歴史的区画街路の構築や住居の配置、また八幡商人の活躍による商工業の振興、さらにこれらを基礎とする精神文化の醸成にしても、現在の当地区の個性ある町に形成し、大きく寄与してきたところである。
このように価値の高い伝統的町並みは、長い年月をかけた生活文化の蓄積をもって築き上げられてきたものであり、そこに住む人々の生活ぶりがよく表現されている。
今後の町並み保存については、町全体の活性化や潤いと落ち着きのあるまちづくりをする良好な生活環境と地域の文化的価値の向上、並びに伝統的な景観を維持する必要性から、ゆっくり時間をかけて、面的・連続的に整備するものである。
そのためには、町全体の動きや変化を敏感に読み取り、生きた集落として目指そうとする方向性を、みんなでしっかりつかまなければならない。
個性的な町づくりは、そこに住む人々が地域を愛し、その意志を集結してはじめて出来るまちづくり事業であり、とりわけ個人の理解と協力が最も重要となる
そのためには、市は住民のみなさんの意向を十分に活かす努力を欠かすことなく、永続的な事業として魅力ある都市づくりに取り組まなければならない。
中でも、八幡保存地区は碁盤目状の美しい整然とした街路の中に立ち並ぶ瓦屋根の商家・町屋など、また八幡堀に面しては石垣・土蔵群など、八幡山を中心に特色ある八幡の町並みを形成しており、特に新町2丁目には、重要文化財である旧西川家住宅などを配し、往時のたたずまいをよく残している。
そこで、保存地区内の町並み保存事業を進めやすくするため、周辺の条件整備を進め、同時に地区内にある文化的価値の高い伝統的造物群を中心に、修理・修景による保存事業を行い、よりすばらしい近江八幡の顔づくりと、自然の豊かな水と緑のまちづくりの創出の実現に努めるものとする。
八幡伝統的建造物群保存地区保存計画について
修理基準(伝統的建造物群)
主として、その外観を維持するため、原則として現状維持または、復元修理とする。ちなみに、伝統的建造物とは、おおむね昭和初期以前(戦前)に建築された建造物(主屋・土蔵・塀等)で、古くからの様式の特徴をよく表していると認められるものをいい、これらの建物の造作と特徴を生かして固有の様式に直すことを「修理」と呼びます。
修景基準(非伝統的建造物群)
伝統的建築様式に合致または順ずるものとし、構造はその様式を世襲する(2階以下)。非伝統的建造物群とは、上記の伝統的建造以外の建造物をいい、これらの建物の外観を、上記の伝統的建造物の古建築様式に合致または、準じたものに合わせながら新・増・改築・移転等をすることを「修景」と呼びます。「修景」の対象部分は、伝統的建造物に同じく、主要な通りや堀から通常望見される外観部分となり、保存地区の特徴と調和したものでなければなりません。従って、全体として八幡にある、旧来の建物の特性(2階までで、原則として建物正面が道路に接続し、屋根は切り妻様式で平入り)や雰囲気が表されなければなりません。
その他の工作物(小屋・門・塀・鳥居・石灯篭など)の修景についても、形・高さ・材料・色彩などを伝統的建造物の特性を持った物にする必要があります。
環境(必要)物件 見越しの松、石垣、石段など
伐採、採取など変更後の状態が著しく歴史的風致を損なわないこと。
環境整備計画
案内板や各種標識等の設置についてもデザイン等が町並みに調和するよう指導や助言を行う。防災設備:火災時の初期消火延焼防止等について、防災意識の高揚と消火設備の設置の推進に努める。
伝統的建造物群保存地区に選定された地域内の建造物は、修理・修景にどのような制約がありますか?
今すぐ何かをしなければならないというものはありません。ただ、建て替えや修繕を行う際には、町並みと調和をはかって計画してもらうのです。又、保存の対象は外観だけで、内部については自由です。外観とは、通常通りから見える部分(正面・側面・屋根)のことで、これらの部分については材質、色彩、構成等に一定の基準が設けられています。
八幡伝統的建造物群保存地区図(新町・八幡堀・永原町等) 13.1ha
町家(景観)保存の取り組み
①和貨と軽食七七八(ななや)
②郷土の食材「丁字麩」麩の吉井
③長五郎せんべいのカネ長
町並み保存に対する現在の取り組み(空き町家活用検討委員会について)
近江八幡市の町並みを構成する上で欠かせないのが、市民の暮らしや商いを営むため長年大切にされてきた町家の数々。
しかしながら、近年は生活形態や社会状況の変化などにより、空き町屋(空き店舗)は増え続けており、高齢社会を迎える現状の中、このまま放置すればさらなる空き町家を生み出し、都市機能の低下を招きます。
このような中、市の関係機関や各種団体、商工会議所不動産部会、町家の居住者やその活用者からなる、「おうみはちまん町家再生ネットワーク」(管理運営は まちづくり会社 株式会社まっせ )が設置されています。ここでは、町家を地域の資産として捉え、新たな利用方法や借り手を探し出すことで、近江八幡らしい町並みの維持を図り、地域住民の定住志向を高め、文化や地域産業の活性化へ繋げていくための具体的な仕組みづくりを模索しています。
近江八幡市の町並み保存・風景・景観に対する取り組み年表
昭和51年 | 伝統的建造物群保存地区保存調査実施 |
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昭和54年 | 第2回全国町並みゼミ開催 |
昭和60年 | ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例(滋賀県) |
昭和63年 | 近江八幡市伝統的建造物群保存地区保存条例公布 |
平成2年 | 近江八幡市八幡伝統的建造物群保存地区保存計画 |
平成3年 | 重要伝統的建造物群保存地区選定 |
~~~~~~中略~~~~~~~~ | |
平成16年 | 景観法制定(国) |
平成17年 | 景観行政団体となり、近江八幡市風景づくり条例を制定 |
平成17年 | 近江八幡市風景計画(景観法に基づく水郷風景計画編)を決定 |
平成18年 | 近江八幡市の水郷が重要文化的景観に選定 |
平成18年 | 景観農業振興地域整備計画を決定 |
平成19年 | 近江八幡市風景計画(景観法に基づく伝統的風景計画編)を決定 |
平成19年 | 空き家と人材のマッチングによる地域活性化調査 |
平成20年 | 空き町家活用検討委員会の発足 |
平成20年 | 屋外広告物許可事務の移管(滋賀県→近江八幡市) |
平成21年 | おうみはちまん町家再生ネットワークの設立 |
平成22年 |
おうみはちまん町家情報バンクHP開設 |
平成25年 | 町家再生ネットワーク機能をまちづくり会社㈱まっせに移行(R6年現在、休業中) |
編集後記
近江八幡における景観保全の取り組みは、市民主導による八幡堀の保存運動等が契機となりました。何か新しいものを開発したり誘致するのではなく、歴史と文化を育んだふるさとを後世へ残すことに主眼がおかれてきました。
当地は、近江八幡市風景づくりを条例の制定、さらに水郷風景計画(全国初の景観計画)、また「近江八幡の水郷」が平成18年1月重要文化的景観の第1号として選定を受けるなど、先進的な事例として大いに評価を受けています。
開発ではなく文化や歴史を守る保存運動が継続して行われていることが、年間500万人余りもの観光客がお越し頂くことに繋がっていると思われます。これからも、住み続けたい町は訪ねてみたい町であることを基本にし、各種事業を進めて行きたいと思います(田中)。